座位姿勢が悪い高齢者に要注意!後方重心の原因とリハビリ方法
リハビリ2025-05-22

櫻リハの櫻本でございます。
今回は転倒予防に着目し、座位姿勢の重心の再教育についてです❗️
高齢者のリハビリ現場でよく見られる現象のひとつが、「座位での後方重心」です。骨盤が後傾し、体幹が後ろに倒れたような姿勢で長時間座っている高齢者を見たことがある方も多いのではないでしょうか?
この座位姿勢の崩れは単なる“姿勢の悪さ”にとどまらず、立ち上がり動作の困難、転倒リスク、呼吸・嚥下・食事機能の低下など、全身の機能障害につながります。
「後方重心座位」の原因と影響、運動療法によるアプローチ、再教育で狙うべき筋肉群などお話していこうと思います❗️
座位での後方重心とは?
後方重心座位とは、以下のような特徴を持つ姿勢です

骨盤後傾し、坐骨でなく仙骨に重心が乗る
背中が悪くなり、頭部が肩より前に出る
足底にうまく荷重できず、踵に重心が集中
この姿勢は「座っているだけで疲れる」「前傾ができない」「視線が不安定」といった状態を招きます。
原因:なぜ高齢者は後方重心になりやすいのか?
高齢者の後方重心には、以下のような複数の要因が関与しています。
① 体幹および下部体幹筋群の筋力低下
・腹横筋・多裂筋・腸腰筋など、骨盤を中立に保つ筋が機能不全
② 筋トーンの亢進や不均衡
・脊柱起立筋やハムストリングスの緊張が高いと、前傾が抑制される
・座位で前傾しようとしても、逆に力が入ってしまい身体を後ろに倒してしまう
③ 感覚入力の問題
・足底や坐骨での支持感覚が乏しいと、適切な重心位置が保てない
・視覚・前庭覚の低下も姿勢コントロールに影響
④ 行動・心理的要因
・転倒経験や「前に倒れるかも」という不安により、無意識に後ろに重心を引く行動
座位重心が及ぼす多面的な悪影響
座位重心の後方化は、立ち上がり動作に限らず以下のような幅広い影響を及ぼします。
①立ち上がり動作の障害

骨盤後傾で体幹が起きず、前傾動作ができない
足底荷重が不十分で、膝を前に出せず離殿困難
結果的に、立ち上がり失敗や後方転倒のリスク増大
②転倒・滑落リスク

椅子端への重心移動ができず、ずり落ちや滑落につながる
後方転倒は頭部外傷や大腿骨頸部骨折のリスクが高い
③呼吸・発声・嚥下機能の低下

胸郭の動きが制限され、呼吸が浅くなる
声が出にくく、嚥下時の安全性も低下
④食事・認知活動の低下

手が届かず、食器操作が困難
視線が安定せず、新聞や塗り絵の作業がしづらく集中ができない
⑤活動量・覚醒レベルの低下

座位自体が疲れる → 横になる時間が増える
廃用症候群や褥瘡、認知機能低下の悪循環
合わせて読みたい
過去に「立ち上がり動作について」のブログを書いています。合わせてお読み下さい。
座位重心再教育のためのアプローチ
◯ 狙うべき筋肉群
腹横筋、多裂筋(体幹の安定)
腸腰筋(骨盤前傾保持)
中殿筋、大腿四頭筋(足底支持と荷重安定)
◯アプローチの優先順位
①過緊張の抑制(ストレッチ・筋膜リリース)
脊柱起立筋やハムストリングスをマッサージやストレッチで緩める
呼吸練習で過緊張を抜く(例:腹式呼吸)
②姿勢保持筋の促通
前後左右の骨盤運動
お腹をへこませる腹圧練習
③重心感覚の再構築
坐骨と足底での荷重フィードバック(鏡や声かけ)
前方へ重心を移す誘導(セラピストの手の誘導など)
実施例:運動療法とストレッチ
◯ ハムストリングスのストレッチ(座位前屈)

①膝を伸ばしすきず、骨盤を立てて行う
②30秒×2セット
◯ 脊柱起立筋のストレッチ

①椅子に座り、頭の後ろに両手を回し骨盤を立てる
②左右斜め方向に背中を丸めながら身体を倒す
③20秒×2セット
◯ 骨盤前傾体操

①椅子に座り、骨盤を後ろに倒し背中を丸める(息を吐く)
②骨盤を前に倒し、腰を反らし背筋を伸ばす(息を吸う)
③呼吸を意識して、20回×2セット
◯ 骨盤傾斜体操

①椅子に座り、骨盤を立てる
②左右のお尻を浮かす様に骨盤をあげる
③20回×2セット
◯ リーチ動作

①椅子に座り、骨盤を立て両手を組む
②手を前に伸ばすように身体を前に倒す
③背中を丸めずに行う
④20回×2セット
◯ 腹横筋の活性化トレーニング

①仰向けになり、膝を立て両手をお腹に置く
②息を吐きながら、お腹をへこませ薄くする
③息を吸いながら、お腹を膨らませる
④10〜15秒かけゆっくりお腹をへこませる
⑤15回×2セット
◯ 股関節屈曲運動

①椅子に座り、骨盤を立て背筋を伸ばす
②左右交互に太ももをあげる
③25回×2セット
まとめ
高齢者に多く見られる座位での後方重心は、単なる「姿勢不良」ではなく、立ち上がりの困難、転倒リスク、呼吸・嚥下・認知機能の低下といった日常生活全体に深刻な影響を及ぼします。その背景には筋力低下だけでなく、筋トーンの不均衡や感覚入力の不足、心理的要因などが複雑に絡んでいます。
したがって対応には、姿勢保持に必要なインナーマッスルの促通だけでなく、過緊張の抑制や重心感覚の再構築といった包括的なアプローチが求められます。特に腹圧練習は、体幹の安定性向上と重心前方化に有効です。
正しい重心位置を再獲得することは、立ち上がりや移乗、食事や会話といった日常動作の質を高め、ひいてはQOL(生活の質)向上にもつながります。
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【引用・参考文献】
1)山田実ほか『姿勢制御と動作分析に基づく高齢者理学療法』文光堂、2019年
2)山下和彦『高齢者ケアにおける座位姿勢評価の実際』日本老年医学会雑誌、2017年
3)Hodges PW, et al. “Postural and respiratory functions of the diaphragm.” Clin Biomech, 2001.
4)Shumway-Cook A, Woollacott M. Motor Control: Translating Research into Clinical Practice. 5th ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2016.
5)宮本省三『高齢者理学療法学』医歯薬出版、2020年