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80歳でも筋肥大はできる — 科学的根拠と臨床で使える処方

リハビリ

櫻リハの櫻本でございます。

今回のテーマは「高齢者でも筋肥大できるのか⁉️」です❗️

加齢に伴う筋量減少(サルコペニア)は生活機能や死亡リスクに直結します。しかし最新の研究は、高齢者・超高齢者でも適切な抵抗運動と栄養介入で筋量(筋肥大)と筋力を増やせることを示しています。高齢者ほど「同じ刺激に対する反応」が弱くなる(=アナボリックレジスタンス)点を理解した上で処方を組めば、80歳でも十分に改善が期待できます。

超高齢期における筋肥大の科学的意義

1.サルコペニアとフレイルの現状認識

超高齢社会において、筋量の減少は避けることのできない生理学的変化として認識されてきました。特に「サルコペニア」と呼ばれる筋力量の減少は単なる老化の一部に過ぎないとされてきましたが、その進行は単に身体機能の低下を招くだけでなく、全身の予後や寿命そのものに大きな影響を与えることが、近年の研究で明らかになっています 。   

私たちが超高齢者に対して筋肥大を目的とした介入を行う際の目標は、若年者のような審美的な目的ではありません。目標とすべきは、筋量を維持・増加させることによって、フレイルや要介護状態への進行を予防し、機能的自立度を高め、ひいては寿命やQOL(生活の質)の向上に寄与することです 。最新の研究では、適切な運動と薬物や栄養素の組み合わせが、筋肉と寿命に与える影響を大きく改善し得ることが示唆されています 。この知見は、80歳を超えた超高齢期においても、筋肥大を諦める必要がないこと、むしろ積極的な介入が予後改善に不可欠であることを示しています。   

2.「80歳からの筋肥大」が可能である科学的根拠

加齢に伴い、筋合成のシグナル伝達系(例:mTORC1経路)の感受性は低下します。これは、若年者と同じ刺激では同化反応が起こりにくくなることを意味します。しかしながら、このシグナル経路が完全に停止するわけではありません。適切な負荷、すなわち高強度のレジスタンストレーニング(RT)刺激と、それをサポートする十分な栄養素が供給されれば、超高齢者においても筋蛋白合成の亢進は誘発可能であることは、多くの臨床研究で裏付けられています。

この可能性を実現するために、加齢特有の生理学的抵抗性、特に「アナボリックレジスタンス」を克服する方法論に焦点を当てます。運動処方だけでなく、栄養学的な介入とした最新の知見を統合し、超高齢者の筋機能改善に向けた多角的な介入戦略を必要とします。

なぜ「年を取ると筋肉がつきにくくなる」のか

アナボリックレジスタンス:筋タンパク合成(MPS)が若年より刺激に対して鈍くなる。食事や運動に対する反応が弱まるため、強めの/工夫した刺激と栄養が必要。

ホルモン変化:テストステロン・IGF-1などの同化ホルモンの低下。

慢性炎症・合併症・薬剤(ポリファーマシー):炎症や一部の薬剤が筋合成を阻害する。

活動量低下・血流低下:筋への負荷や栄養供給が不足。血流改善や日常活動の増加も重要。

1.筋肥大の最大の壁:アナボリックレジスタンス(AR)

高齢者の筋肥大を阻害する最大の生理学的要因の一つが、アナボリックレジスタンス(Anabolic Resistance: AR)、すなわち「同化抵抗性」です。ARとは、高齢者に特有の現象であり、アミノ酸を含めた栄養素を摂取した後でも、筋組織において蛋白合成が正常に行われにくくなる状態を指します 。高齢者になると、物質を合成する「同化」プロセスに対する抵抗力が強くなり、筋肉の異化(分解)優位な状態に傾きやすくなります。   

このARは、単なる加齢現象として片づけられるものではなく、その背景には多因子的な要因が関与しています。手術や外傷などの急性疾患、種々の慢性消耗性疾患、加齢、運動不足(不動)、さらには副腎皮質ステロイド投与などの要因により、ARは増悪します 。特に、悪液質患者は基礎疾患による慢性炎症に加え、加齢や不動といった要因が加わることで、非常に高度なアナボリックレジスタンスの状態にあることが指摘されています 。   

臨床現場において、筋肥大を促すための介入を成功させるためには、このアナボリックレジスタンスを克服することが必須です。したがって、単に高タンパク質を摂取したり、運動を行ったりするだけでなく、まず基礎疾患による慢性炎症を適切にコントロールし、不動状態を回避・是正することが、リハビリテーション栄養の観点から介入成功の前提条件となります。

2. アナボリックレジスタンスを克服する栄養戦略

アナボリックレジスタンスが存在するため、高齢者はタンパク質同化に対して抵抗性を持っており、若年者と比較して、筋肉に取り込むためにより多くのタンパク質量を必要とします 。   

したがって、筋合成を促進するためには、単にタンパク質を摂取するだけでなく、その量と質が重要となります。特に、血清アルブミン値が低下している低アルブミンの方など、栄養状態が悪化している患者には、通常よりもさらに多くのタンパク質が必要となるケースが多くなります 。しかし、注意すべき点として、単に大量のタンパク質を投与すれば良いわけではありません。腎機能などのリスクを考慮しつつ、適切な評価に基づいた個別的な摂取方法の指導が専門職には求められます 。   

食事摂取だけで必要量を満たすことが困難な場合、ONS(Oral Nutritional Supplement:経口栄養補助食品)の適切な活用が有効な手段となります。ONSは高カロリー・高タンパク質を効率的に摂取できる手段ですが、その効果を最大限に引き出すためには、患者の服薬コンプライアンス(遵守率)を向上させることが重要です。適切な摂取方法を指導するとともに、その服用意義を十分に説明し、患者の理解を得ることが成功に繋がります 。   

アナボリックレジスタンスを打ち破る栄養介入の深化:タイミング戦略

1. 体内時計(サーカディアンリズム)と筋合成の関連

筋肥大を促進するための栄養戦略において、摂取量と質に加えて、近年の研究では摂取タイミングの重要性が指摘されています。タンパク質摂取による筋量増加効果は、体内時計(サーカディアンリズム)を介して引き起こされ、このリズムが正常に機能していることが重要であると明らかになりました 。   

特に、活動期のはじめ、すなわち朝食時のタンパク質摂取が筋量増加に効果が高いことが、動物実験およびヒトの食事調査に基づいて示されています 。この朝食時の筋量増加効果には、筋肉の合成を強力に高める作用を持つ分岐鎖アミノ酸(BCAA)が深く関わっていることが示されています 。   

2. 朝食時タンパク質摂取の臨床的意義

多くの国の食事調査では、高齢者は朝食におけるタンパク質摂取量が少なく、不足しがちな傾向が見られます 。従来の栄養指導は運動後の「ゴールデンタイム」に重点を置くことが多かったものの、超高齢者においては、アナボリックレジスタンスを克服し、体内時計のリズムに合わせて筋合成を効率的に行うために、朝食時のタンパク質摂取を意識的に増やすことが重要な第一歩となります。   

リハビリ専門職は、運動プランの処方と併せて栄養士と密に連携し、朝食で摂取しやすいタンパク質豊富なメニュー(例:卵料理、乳製品、プロテインシェイクなど)の具体的な提案まで踏み込むことが、成功率を高めるために推奨されます 。   

では具体的に何をすれば良いか — 多角的介入の全体像

抵抗運動(RT:resistance training) — 中核的介入

栄養(特にタンパク質/ナイアシン・ロイシンの分配) — トレーニングと同時実施で相乗効果

補助的手法:低負荷+血流制限(BFR)、パワー訓練(機能改善目的)、有酸素で心血管対策

薬・ビタミン・疾患管理:ビタミンD、慢性炎症や心血管疾患の最適化、薬剤見直し

安全管理・段階的導入:持病・心血管リスク・転倒リスクに応じた調整

(要点)適切な負荷(または低負荷でも到達疲労)+十分なタンパク質量・分配+漸進的負荷増加が鍵。長期間の継続が必要。

80歳向け具体的実践トレーニングプログラム

筋肥大を誘発するためには、トレーニング負荷を段階的に高める「漸進性の原則」が必須です 。しかし、80歳以上の超高齢者は体力差が非常に大きく、若年者と同様の最大挙上重量(1RM)に基づく画一的な負荷設定は危険を伴います。

週2〜3回。初期は週2回から開始し、耐容性良好なら週3回と状態を確認しながら変更していきます。

1. プログラム構成とウォーミングアップ

運動プログラムは、全身のコンディショニングと安全確保から始める必要があります。実績のあるプログラム例では、ウォーミングアップとストレッチ(20〜25分)、筋力トレーニング(50〜60分)、歩行・クールダウン(10〜15分)といった90分間の構成が採られていますが、超高齢者の体力レベルに応じて、RTに重点を置いた30分間の短縮プログラムも選択肢として考慮されます 。   

セッション中、特に筋力トレーニングにおいては、参加者が自身の「きつさ」(RPE)を自己評価し、目標強度を維持しているかを確認することが不可欠です 。

2. 主要筋群別 低負荷/自重トレーニング(下肢集中)

以下の種目は、機能的自立度に直結する大腿四頭筋と下腿三頭筋を主要なターゲットとします。負荷は自重、徒手抵抗、チューブ、ダンベル、アンクル・ウェイトなど、安全かつ漸進的に調整可能なものを用います 。

① 大腿四頭筋筋力トレーニング(セッティングエクササイズ)

目的: 膝伸展筋力の強化。

方法: 座位で膝を伸ばした状態で片足を上げ、5〜10秒間キープします。この際、つま先を自分の方向に向け(背屈)、大腿四頭筋の緊張を最大化させることがポイントです 。   

処方: 左右それぞれ10回で1セットとし、1日2〜3セット行います 。   

応用指導: 動作が可能な場合、下ろす際に4秒かけてゆっくりと制御する(遠心性収縮)よう指導することで、筋肥大効果を高めます。

② 大腿四頭筋・下肢全体の筋力トレーニング(スクワッティングエクササイズ)

目的: 立ち上がり動作に必要な下肢全体の協調性と筋力の強化。

方法: 体はまっすぐのまま、足を肩幅に開き、膝でつま先が隠れるところまで膝を曲げた状態で5〜10秒間キープします 。   

処方: 10回で1セットとし、1日2〜3セット行います 。   

応用指導: 不安がある場合は椅子や手すりにつかまって行い、安全を確保します。椅子からの立ち上がり動作を想定し、高負荷に挑戦する場合はRPEを監視しながら行います。

③ 下腿三頭筋筋力トレーニング(足関節底屈エクササイズ/カーフレイズ)

目的: 歩行時のプッシュオフ(蹴り出し)機能の強化とバランス能力の改善。

方法: 何かにつかまって安定した状態で立ち、かかとを上げ、つま先立ちの状態で5〜10秒間キープします 。   

処方: 10回で1セットとし、1日2〜3セット行います 。   

応用指導: バランス保持が困難なため、必ず安定した支持物につかまらせます。下ろす動作をゆっくり行うことで、筋肥大効果と機能性の両方を追求します。

④ 柔軟性トレーニング(クールダウン)

方法: すべての大筋群を対象に、痛みのない可動域ぎりぎりの筋緊張感を感じる範囲で、15〜30秒間の静的ストレッチを2〜4回行います 。 

応用指導:  クールダウンにストレッチを行なっているが、筋短縮や関節拘縮のある高齢者では運動前後に行うことで怪我や痛みのコントロールに繋がる。

※画像は下腿三頭筋(腓腹筋)のストレッチ例

まとめと臨床応用への展望

80歳を超えた超高齢者の筋肥大・筋機能改善の成功は、単一の介入に依存するものではありません。加齢による生理学的抵抗性、特にアナボリックレジスタンスを克服し、持続的な筋合成を促すためには、以下の戦略をもって多角的に介入する必要があります。

1.運動戦略: RPE(主観的運動強度)に基づく漸進的かつ高強度なレジスタンストレーニングの継続。特に、機能的アウトカムに直結する遠心性収縮の意図的な導入。

2.栄養戦略: アナボリックレジスタンスを考慮した高タンパク質の絶対量確保と、体内時計のメカニズムを活かした朝食タイミングの最適化

    また、上記の二つに加え基礎疾患や炎症の適切な管理、そして将来的なNAD+ブースターの活用検討など、分子病態レベルからの代謝改善アプローチも視野に入れたい。


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