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誤嚥性肺炎について

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櫻リハの櫻本でございます。

さて今回は「誤嚥性肺炎について」です❗️

誤嚥性肺炎は、現代の日本社会、特に高齢化が進む中で、避けて通ることのできない重大な健康課題となっています。これは、単なる病気ではなく、高齢者の生命予後と生活の質(QOL)に深く関わる問題であり、日本における主要な死因の一つに数えられています。

嚥下機能の評価、訓練、そして食事形態の調整を専門とする言語聴覚士(ST)の視点を融合させ、誤嚥性肺炎のメカニズムと、家庭や施設で実行できる具体的かつ科学的な予防策を網羅的に解説します。予防こそが最善の治療であるという認識のもと、適切な対策を講じるための実践的な知識を覚えていきましょう。

「誤嚥性肺炎」とは何か?原因・メカニズム

誤嚥性肺炎とは、成人肺炎診療ガイドラインでは「誤嚥あるいは嚥下障害を診断した患者に認められた(細菌性)肺炎」と診断基準が示されています。

誤嚥リスクが確認された患者に生じた肺炎は誤嚥性肺炎ということになります。

誤嚥性肺炎は食べ物を誤嚥したから起きた肺炎?

食事中の食べ物や飲み物でのむせ込んだので肺炎になった」と捉えるのは間違いです。

介護施設の入所中の高齢者148名に対し、ミールラウンドおよび嚥下内視鏡検査による評価を元に追跡した研究において、唾液誤嚥を示していた者は、その後の肺炎発症と関連を示した。一方で、食物の誤嚥は肺炎の発症と関連づけられなかった。

確かに誤嚥が原因ではあるが、食事の際の食べ物や飲み物ではなく誤嚥性肺炎の主体は口腔内の細菌を含んだ唾液が原因ということです。飲食の際に唾液が混じるので、食事の誤嚥では口腔内の細菌を含んだ唾液が一緒に入るので誤嚥性肺炎を起こさないわけではありません。誤嚥性肺炎の主な原因は、日中の食事中の微量な唾液誤嚥と睡眠中の唾液誤嚥と理解しましょう。

また、もし口腔内の清潔が保たれていないと、唾液中の細菌数が過剰に増大し、この高濃度の細菌群が肺に侵入することで、肺炎の発症リスクが劇的に高まるのです。したがって、嚥下機能の維持と徹底した口腔ケア(多職種の役割)の両輪が、予防の根幹となります。

誤嚥を引き起こすリスク因子

嚥下機能の低下は、様々な要因によって引き起こされます。これらの危険因子を認識し、予防対策を講じることが重要です。

リスク因子基礎疾患
加齢 嚥下障害 咳反射の低下脳疾患(急性、陳旧性)
喀痰の喀出困難(吸引の必要性)神経疾患(パーキンソン病、ALSなど)
寝たきり 長期臥床認知症
意識障害 筋力低下筋疾患(筋無力症、多発性筋炎など)
鎮静薬、睡眠薬内服胃食道逆流症(胃全摘術後)
口腔乾燥 歯牙異常糖尿病 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
低栄養(経口摂取困難)インフルエンザ感染(風邪症候群)
免疫不全(免疫抑制薬使用、ステロイド薬使用者)咽頭・喉頭手術後
腹部手術後、股関節手術後 胃瘻留置反回神経麻痺
誤嚥性肺炎の既往気管切開後(気管カニューレ留置)

上記の表に示した通り、誤嚥物の量や質、喀出能力、体力、免疫などが複雑に関与しています。

また、誤嚥リスクがあり食事時のむせを減らそうと、トロミをつける・嚥下食にするなど誤嚥の頻度が減ったとします。しかし、低栄養や寝たきりによって体力・免疫の低下が進行すると誤嚥性肺炎のリスクは上昇してしまうことは理解しておきましょう。

予防の二本柱—正しい食事姿勢と実践的な嚥下体操

誤嚥性肺炎の予防には、環境設定と身体への直接的なアプローチが必要です。これは主に、摂食時の正しい姿勢の指導と嚥下体操(間接訓練)から構成されます。

◯安全な摂食のための環境設定と正しい姿勢

身体が安定していることは、正確で安全な嚥下動作を行うための前提条件となります 。特に以下の点に留意する必要があります。 

・体幹・座面: 椅子に深く座り、膝が90度に曲がり、足裏全体が床またはフットレストにつくように設定します。これにより、身体の安定が確保され、食物を食道へ送り込むための腹圧を確保しやすくなります 。   座位保持能力に応じて、リクライニング車椅子など適宜選択します

・テーブルの高さ: 腕をテーブルに乗せて肘が90度に曲がる程度が理想的です。身体とテーブルの間は握りこぶし一つ分開け、無理のない動作で食物を口まで運べるようにします 。   

・頭頸部: 食物を口に運び、嚥下する際は、顎を軽く引いた姿勢(やや前傾)を保つことが重要です。頚部前屈位を基本として、本人の楽な姿勢で行いましょう。

◯嚥下体操(間接訓練)の具体的な手順

嚥下体操は、飲み込みに関わる筋肉の協調性と力を高めるための重要なトレーニングです。鏡で自分の動きを確認しながら行う、施設などでは食事の前に集団で口腔体操を行う事でより効果を高めます 。   

【呼吸訓練】

深い呼吸は、嚥下に必要な呼吸と嚥下の協調性を高めます。鼻から息を吸い、口からゆっくりと息を吐き出す動作を3回繰り返します 。 

【肩の上下運動】

口から息を吸いながら両肩を上へ持ち上げ、口からゆっくり息を吐きながら肩を元の位置に戻します(3回)。胸郭を広げ、深い呼吸を促します 。

【首の運動】

正面を起点に、ゆっくりと首を左右に回します(3回)。嚥下に関連する頸部の筋肉の弛緩を促します 。   

【パタカラ体操】

①単音発音

「パ」「タ」「カ」「ラ」とくっきり、はっきり1音ずつ発音しましょう

②連続発音

「パパパパ…..」「タタタタ…..」

「パタカラ、パタカラ…..」と連続で発音しましょう

【あいうべ体操】

①「あー」と口を大きく開く
②「いー」と口を大きく横に広げる
③「うー」と口を強く前に突き出す
④「ベー」と舌を突き出して下に伸ばす

口唇の運動(イー・ウー体操): 唇を横に引き「イー」の形、その後思いきりすぼめて「ウー」の形にします(10回) 。口の周りの筋肉を鍛え、食べこぼしやムセを防ぎます。   

舌の運動(食塊形成・輸送力の強化):

口を開け、舌を「ベー」とできるだけ突き出し、その後、舌をできるだけ奥に引っ込めます(10回) 。   

嚥下体操一つ一つには、「なぜその運動をするのか」という明確な目的があります。例えば、舌の運動は、咀嚼した食物をひと塊にし(食塊形成)、それを効率的に咽頭へ送り込み(食塊輸送)、口腔内残留を減らすことに直結しています。この目的を理解することで、継続的な訓練を促し、リハビリテーションの効果を高めることができます。

予防の最前線—口腔ケアの徹底とその実践方法

誤嚥性肺炎の主な原因は、口腔内の細菌が唾液や食物とともに肺に侵入し、感染を引き起こすことにあります 。したがって、口腔ケアの最も重要な役割は、肺炎の原因となる細菌数を劇的に減少させることです 。   

口腔内の細菌数を低く保つことで、仮に不顕性誤嚥が発生したとしても、重篤な肺炎を発症するリスクを軽減できます 。特に就寝中は細菌が繁殖しやすいため、寝る前の徹底したケアが重要です。   

さらに、口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に留まらず、全身の健康維持にも直結します。口腔トラブルは、脳梗塞、動脈硬化、心筋梗塞など、他の全身性疾患のリスクを高めることが指摘されており、咀嚼機能や嚥下機能の改善を含む口腔機能の維持・向上も重要な目的となります。

◯唾液は天然の洗口液

誤嚥性肺炎のおもな原因は唾液の誤嚥ですが、唾液そのものが原因ではなく汚れた口腔内の口腔細菌と混じり会うことになり、その汚れた唾液が原因となります。

唾液は本来無菌で抗菌作用があります。1日1L前後分泌され、口腔内の汚れなども一緒に洗い流してくれています。唾液は天然の洗口液と言えるのです。

◯義歯の清掃

口腔ケアの時に、義歯の洗浄はとても大切です。

実際に、毎日義歯清掃をする場合としない場合で、過去1年間の肺炎発症率を調査したところ、毎日清掃をしなかった場合、65歳以上の高齢者では肺炎発症率が1.3倍、75歳以上では1.6倍だったと報告があります。

義歯の清掃の際には、義歯ブラシか柔らかい歯ブラシでのブラッシングが必須です。流水で流すだけの清掃ではバイオフィルムを除去できなかっただけでなく、オキシドールなどで5分浸漬よりも義歯にこびりついたバイオフィルムの除去効果が高く、また最も効果的だったのは、ブラッシングと義歯洗浄剤を併用した方法です。

忘れがちなのが義歯ケースです。義歯ケースにもバイオフィルムが付着するので水を入れ替えるだけでなく、義歯ケース自体もブラッシングするようにしましょう。

まとめ

誤嚥性肺炎の予防は、嚥下機能の低下、口腔内の不潔の要素に多角的に介入することで初めて可能となります。特に嚥下機能障害の管理は、薬物療法(例:パーキンソン病のドーパミン補充療法による嚥下筋の協調性改善)、リハビリテーション、栄養管理、口腔ケアなど多岐にわたるため、単一の職種だけで完結することはできません。   

日々の「徹底した口腔ケア」「正しい食事姿勢の維持」「嚥下体操の継続」を実行するとともに、ムセや湿声、食事時間の延長など、少しでも嚥下機能の低下が疑われるサインを見つけた場合は、専門の摂食・嚥下外来を設けている医療機関に相談することを強く推奨します 。早期の専門的な評価と指導を受けることが、安全な食事と健康な生活を守る最善策です。   


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