失語症のタイプ別「机上課題」まとめ|症状に合ったリハビリ課題の選び方
リハビリ2025-06-04

櫻リハの櫻本でございます。
今回は「失語症の机上課題」です❗️
失語症は、脳卒中や頭部外傷などの脳損傷により、言語の理解・表出に障害をきたす状態です。しかし、その症状は一様ではなく、失語症にはいくつかのタイプが存在します。ご利用者様、ご入居様の中に決して少なくない失語症の方へどのようなアプローチをすれば良いのか?それぞれのタイプに応じたリハビリ課題(机上課題・プリント)を用いることが、言語機能回復において重要なポイントです。
失語症の主なタイプごとに「有効な机上課題」を紹介し、おすすめの無料プリントサイトと共にお話していこうと思います。
失語症とは?|原因と分類

失語症(aphasia)は、脳の言語中枢が損傷されたことで、言葉の理解や表出に障害をきたす状態です。原因の多くは以下のようなものです。
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害(CVA)
頭部外傷(TBI)
脳腫瘍
神経変性疾患(例:原発性進行性失語)
分類は損傷部位と症状のパターンに基づいて、主に以下の6タイプに分けられます。
失語症のタイプ別症状と有効な机上課題(プリント)

● ブローカ失語(運動性失語)
主な症状:発話困難、文法的エラー、理解は比較的良好
損傷部位:左前頭葉ブローカ野(第44・45野)
有効な課題例
名詞や動詞のカードマッチング
絵に対応する単語の穴埋めプリント
音読訓練(単語→短文)
自由記述訓練(自分の体調・今日の出来事など)
● ウェルニッケ失語(感覚性失語)
主な症状:流暢だが意味のない発話、理解障害あり
損傷部位:左側頭葉ウェルニッケ野(第22野)
有効な課題例
絵を見て正しい文章を選ぶ課題
指示理解課題(例:〇を赤く塗る)
単語の意味選択課題(例:「りんご」に合う絵を選ぶ)
●全失語(グローバル失語)
主な症状:話す・聞く・読む・書くのすべてに高度な障害
損傷部位:広範囲(ブローカ+ウェルニッケ+弓状束など)
有効な課題例
絵カードを使ったYES/NOクイズ
感情表現カードで非言語的コミュニケーションを支援
身体を使ったジェスチャー模倣訓練
● 伝導失語
主な症状:復唱障害が顕著、理解と自発話は比較的保たれる
損傷部位:弓状束(ブローカとウェルニッケをつなぐ)
有効な課題例
短い文章の復唱練習
音の並び替え課題
文章完成問題(例:「朝、起きたら…」→続きを書く)
● 超皮質性感覚失語
主な症状:復唱は保たれるが意味理解が困難
損傷部位:側頭葉の後部と頭頂葉の間(角回周辺)
有効な課題例
復唱タスクと理解タスクの分離訓練
意味一致課題(例:「ボール」に合う動作を選ぶ)
絵の説明文の穴埋め問題
● 超皮質性運動失語
主な症状:自発話困難、復唱は可能、理解は比較的保たれる
損傷部位:左前頭前野(補足運動野〜帯状回)
有効な課題例
自己紹介のテンプレートを用いた自発発話練習
カテゴリー分け(果物・動物など)
発話のキューイング(音や動作によるヒント提示)
言語聴覚士がいない現場での失語症の課題選定と評価のポイント

【評価の基本方針】失語のタイプを大まかに把握する
簡単な観察ポイントを使って、「理解が得意か?」「話すのが得意か?」という軸でタイプを把握します。
観察ポイント | 質問例 | 反応で分かること |
自発発話があるか | 「今日は何曜日?」 | 話す力(流暢性) |
指示が通るか | 「手を振ってください」 | 理解力(聴覚的理解) |
簡単な言葉が出るか | 「これは何?」と絵を見せる | 語想起の力 |
書く・読む能力は? | 「ひらがなを書いて」など | 書字・読字機能の確認 |
失語症のタイプ別ざっくり対応例
観察結果 | 予想されるタイプ | 課題の選び方 |
理解〇、話す× | Broca失語(運動性) | 指示理解・語彙想起 |
理解×、話す〇 | Wernicke失語(感覚性) | 単語マッチング・YES/NO判断 |
理解×、話す× | 全失語 | 非言語的支援(ジェスチャー・絵)活用 |
ざっくりですが、簡易評価チェックシートを作成してみましたのでお試し下さい🙇♂️
【課題の選定】レベル別に選ぶ方法

失語症教材を使う際は、簡単なものから段階的に試し、どのレベルでミスが出るか観察するのがポイントです。
🔻レベル1:非言語・反応観察
・拍手、手を挙げるなどの「模倣指示課題」
・絵と実物のマッチング
🔻 レベル2:語の理解・発話
・名前を言わせる課題(これは何?)
・同じ仲間を選ばせる(果物の中から「バナナはどれ?」)
・YES/NO質問(リンゴは赤い?)
🔻 レベル3:短文理解・書字課題
・「ボールを蹴っているのは誰ですか?」のような絵カード理解
・「〇〇を書いてください」ひらがな~漢字レベルで徐々に
🔻 レベル4:文章構成・会話応答
・日記の口頭記述、短いストーリーの要約
・フリートーク(昨日は何をしましたか?)
失語症リハビリに役立つ!おすすめ無料プリント配布サイト【ST監修】
失語症のリハビリには、机上課題や音読、語想起などを目的としたプリント教材がとても有効です。
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注意
※以下のサイトは、それぞれの運営者が著作権を保持したうえで無料公開しているものです。再配布や加工利用はせず、リンク先のガイドラインに沿ってご活用ください。
✅ STの教材部屋(STSroom)
✅ 縁の下の言語聴覚士
✅ リハビリDATA
・特徴:語想起・文理解などテーマごとに整理された教材
・対象:高次脳機能障害や軽度の失語にも有効
✅ 言語聴覚士のリハビリ研究所
・特徴:文章の読み書きや言語構成力向上を目指した教材
✅ PT・OT・STニュース.blog
・特徴:視覚的注意・かな並びなど、失語以外の訓練にも対応
・URL:https://ptotstnews-blog.com/rehaprint/aphasia-kana-arrangement/
まとめ
失語症の机上課題は、「症状に応じた適切な内容」を選択することが重要です。症状を見誤ると逆効果になることもあり、専門的な評価と訓練計画が不可欠で、医師や言語聴覚士に相談することも必要です。ご家族や介護スタッフの協力により、日常生活の中でも継続した支援が可能となります。
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櫻訪問リハビリテーションでは、高齢者施設にご入居の皆さまや施設職員の方々へ、個別リハビリテーションの提供を通じて、施設サービスの質の向上をお手伝いしています。
失語症のご利用者・ご入居様へのご相談や机上課題の提案もさせて頂きます。
マッサージやストレッチのみのご利用も可能ですので、お気軽にご相談ください。
詳しいご説明やご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください🙇♂️
【引用・参考文献】
1)嶋田智明 他(2002)『標準失語症検査(SLTA)』言語聴覚士向け検査法、東京:日本文化科学社
2)木村晴子(2006)『失語症の理解と対応』医歯薬出版