上位交差症候群(UCS)とは?原因・症状・効果的なストレッチと運動療法を徹底解説
リハビリ2025-05-16

櫻リハの櫻本でございます。
今回は「上位交差症候群」についてです❗️
デスクワークやスマホ操作が多い現代人に急増中の「上位交差症候群(UCS)」慢性的な肩こり・首の痛み・猫背姿勢が気になる方は要注意です。また、高齢者にもこのような姿勢が多く座位や立位姿勢、歩行までにも影響を及ぼします。UCSの症状・原因・改善のための運動療法やストレッチを詳しく解説します。
上位交差症候群(UCS)とは?

上位交差症候群(Upper Crossed Syndrome:UCS)は、首や肩周囲の筋バランスの崩れによって、猫背や頭部前方位(Forward Head Posture)などの姿勢不良が生じ、慢性的な筋肉痛や関節の不調を引き起こす状態です。
この「交差」とは、過活動(緊張しすぎ)な筋肉と、抑制(弱化)された筋肉が、前後・上下に交差するような分布をしていることに由来します。
UCSにおける典型的な筋バランス
緊張・短縮している筋群 | 抑制・弱化している筋群 |
胸筋群(大胸筋・小胸筋) | 頸部屈筋群(深頸屈筋) |
上部僧帽筋・肩甲挙筋 | 下部僧帽筋・前鋸筋 |
主な症状
肩こり・首こりの慢性化
頭痛(緊張性頭痛)
猫背・巻き肩
肩甲骨の可動性低下
胸郭の動きの制限(呼吸の浅さ)
頸椎や肩関節への負担増加(頸椎症や肩関節周囲炎の原因に)
これらの症状は、放置すると日常生活の質(QOL)を低下させる要因となります。
原因とリスク因子
原因は様々ありますが、普段からの不良姿勢や仕事などの習慣的な姿勢により筋肉のアンバランスを形成し姿勢に現れ、症状が出てきます。
長時間のデスクワークやスマホ操作
運動不足による筋力低下
不良姿勢の習慣化
ストレスによる筋緊張の持続
頸椎・胸椎への負担:UCSによる構造的変化とは?
上位交差症候群(UCS)では、頸椎と胸椎の動きにも特徴的なパターンが現れ、これが椎間関節や椎間板への負荷、さらには関節変性の進行につながります。
● 上位頸椎(C1〜C2)の過伸展
デスクワークやスマホ操作などで頭が前方に出た状態が長く続くと、上位頸椎(環椎・軸椎)は過伸展位になります。これにより、後頭下筋群(大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋など)が過緊張し、頭痛や頸部可動域の制限の原因になります。
さらに、環椎・軸椎の椎間関節に剪断ストレスが加わり続けることで、変性や可動性の異常(不安定性)が進行する可能性も指摘されています。
● 下位頸椎(C5〜C7)の屈曲
一方で、下部頸椎では過度な屈曲が生じ、椎間板前方への圧力が高まります。これにより、
・椎間板変性(頸椎椎間板症)
・骨棘形成
・神経根の圧迫(頸椎症性神経根症)
といった慢性的な頸椎障害に進展するリスクも高くなります。
● 上位胸椎(T1〜T4)の可動性低下と変性
UCSにより肩甲帯が前方に引っ張られ、猫背姿勢が習慣化すると、上位胸椎(T1〜T4)は常に屈曲・円背状態になります。これにより次のような影響が出ます
・胸椎椎間関節・椎間板の変性促進
・胸椎可動性の低下(特に伸展・回旋方向)
・肋椎関節の機能障害(呼吸制限、肋間神経痛)
・肩甲胸郭関節の運動制限→肩こりや五十肩の誘因
重要ポイント
胸椎の動きは肩関節の可動性や呼吸の深さにも密接に関係しています。胸椎が硬くなると、結果的に肩や肋骨、さらには頸椎にまで過剰な負担がかかるという「連鎖反応」が起こります。
UCSに対する運動療法|鍛える筋肉とストレッチする筋肉
1. 鍛えるべき筋肉(弱化している筋)
筋肉名 | 作用 | 推奨トレーニング方法 |
深頸屈筋群 | 頸椎の安定化・顎引き動作 | チンタックエクササイズ |
僧帽筋下部 | 肩甲骨の下制と内転 | Y字リフト、ラットプルダウン、スキャプラ・リトラクション |
前鋸筋 | 肩甲骨の外転と固定 | ウォールプッシュ |
僧帽筋中部 | 肩甲骨の内転 | セラバンド・ローイング |
2. ストレッチすべき筋肉(短縮している筋)
筋肉 | 作用 | 推奨ストレッチ方法 |
大胸筋・小胸筋 | 肩関節の水平内転・肩甲骨前傾 | 壁を使った胸筋ストレッチ |
僧帽筋上部 | 肩甲骨の挙上・上方回旋 | 頸部側屈ストレッチ |
肩甲挙筋 | 肩甲骨の挙上・下方回旋 | 首すじのストレッチ |
後頭下筋群(大後頭直筋など) | 頭部の伸展と回旋 | チンタック+頸部屈曲ストレッチ |
UCSに効果的な運動療法プログラム(例)
以下は、UCS改善を目的とした1日10〜15分の簡易運動プログラム例です。
【Step 1】ストレッチ(短縮筋のリリース)

【壁を使った大胸筋ストレッチ】
①壁に手をつき、体を反対側にひねる
②20秒×左右2回ずつ

【頸部側屈ストレッチ(上部僧帽筋・肩甲挙筋)】
①片方の手の手首を掴み、掴んだ手の反対側へ頭を倒す
②掴んだ手首を下または倒した頭側へ引っ張る
③20秒×左右2回

【チンタック+頸部屈曲ストレッチ(後頭下筋群)】
①顎を引いたまま頭を両手で前に軽く倒す
②10〜15秒×2回(呼吸は止めない)
【Step 2】筋力トレーニング(弱化筋の強化)

【チンタックエクササイズ(深頸屈筋)】
①仰向けまたは座った状態で顎を軽く引く(「二重顎」を意識)
②5秒キープ×10回(無理に首を持ち上げない)

【ラットプルダウン(下部僧帽筋)】
①タオルを両手で持ち、頭上へあげる
②肘を下に引きながら、頭の後ろにタオルを下げる
③肩甲骨を下げて内側に寄せる意識
④20回×2セット

【ウォールプッシュ(前鋸筋)】
①壁に手をついて腕立て伏せの姿勢
②肘を伸ばしたまま肩甲骨を前に突き出す
③20回×2セット

【セラバンドローイング(僧帽筋中部)】
①セラバンドを使い、肘を後方に引く
②肩甲骨の内転を意識してゆっくり行う
③20回×2セット
運動の注意点
反動を使わず、ゆっくり丁寧に動くこと
呼吸を止めないこと(ストレッチ時は自然呼吸)
頸部に痛みやめまいが出る場合は中止し、医療機関へ相談
まとめ
UCS対策は“伸ばして、鍛えて、整える”が基本❗️
頸椎と胸椎は連動して動きます。上位交差症候群の根本的な解決には、単なるストレッチや筋トレだけでなく、脊柱全体の動きとアライメント(配列)を評価・修正することが重要です。
「短縮筋のストレッチ」→「弱化筋の強化」→「姿勢の再教育」という三段階の運動戦略が重要です。これを毎日の生活に少しずつ取り入れることで、肩こりや猫背、頸椎症などの予防にもつながります。
特に頸椎と胸椎の連動性を理解し、「頭の位置」や「胸椎の柔軟性」を意識した運動習慣を取り入れることで、UCSの予防と改善が見込めます。
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【引用・参考文献】
1)Janda, V. (1988). Muscle Function Testing. Butterworth-Heinemann.
2)Page, P., Frank, C. C., & Lardner, R. (2010). Assessment and Treatment of Muscle Imbalance: The Janda Approach. Human Kinetics.
3)Sahrmann, S. A. (2002). Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. Mosby.
4)Griegel-Morris, P., et al. (1992). Incidence of common postural abnormalities and their association with pain. Physical Therapy, 72(6), 425–431.
5)Kebaetse, M., et al. (1999). Thoracic position effect on shoulder range of motion. Arch Phys Med Rehabil, 80(8), 945–950.
6)川島孝一郎ほか(2014)『筋骨格系のキネシオロジー』医歯薬出版.
7)小田伸午(2015)『動きの解剖学』NAP.