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コーレス骨折術後のリハビリと創部ケア

リハビリ

櫻リハの櫻本でございます。

さて今回は、高齢者が多く受傷する「コーレス骨折」についてです❗️

コーレス骨折(橈骨遠位端骨折)は、手をついた転倒時に高頻度で発生する外傷です。多くはプレート固定術で治療されますが、術後のリハビリと創部のケアが予後に大きく影響します

術後の代表的な運動療法である「Six Pack Exercise」と、創部モビライゼーションによる癒着予防・可動域改善についてお話していこうと思います❗️

コーレス骨折とは?

コーレス骨折(Colles fracture)

橈骨遠位端の骨折であり、転倒時に手をついて起こることが多く、特に高齢者女性に多発します。骨粗しょう症との関連が強く、前腕が背屈・橈屈し、“フォーク状変形”を呈するのが特徴です。

🦴 コーレス骨折術後の経過概要

時期管理とリハビリのポイント
術後〜2週創部保護・指の自動運動の徹底
術後2〜6週手関節の自動運動開始、滑走性トレーニング
術後6週以降抵抗運動・日常動作復帰訓練

手術後の一般的な管理

◯手術適応と方法

保存療法では整復困難な転位例や粉砕例では、プレート固定術や経皮的鋼線固定術が施行されます。
術後はギプスや副子による固定が1~4週間行われます。

◯管理の基本

創部の感染予防

適切な鎮痛管理

上肢の挙上による腫脹軽減

早期からのリハビリ開始の検討

術後リハビリテーションの重要性

術後のリハビリは、拘縮・廃用症候群・日常生活活動(ADL)低下の予防に極めて重要です。特に高齢者では、リハビリ開始の遅れが要介護リスクを増加させることが明らかになっています

◯リハビリの流れと内容

【①早期段階 術後〜2週間】

目標:浮腫軽減、指の可動域(ROM)保持

内容

手指の自動運動(Six Pack Exercise:後述)

上肢挙上保持

側臥位や立位での肩関節・肘関節の可動域訓練

【②中期段階 2〜6週間】

目標:関節可動域の改善、筋力回復

内容

手関節の屈曲・伸展運動

橈屈・尺屈の他動→自動運動

抵抗運動(セラバンドなどを使用)

【③後期段階 6週〜3ヶ月】

目標:日常生活・仕事復帰

内容

家事動作・洗顔動作などのADL動作への再参加

パソコン操作・字を書く練習

趣味活動(園芸・手芸)への再参加

高齢者における注意点

骨粗しょう症の評価と治療の導入

◯認知機能の影響:命令理解力や自発性の確認が必要

◯転倒リスク評価(TUGテスト、バランス評価)による再発防止

環境整備(自助具や手すりの導入の検討)

Six Pack Exerciseとは?術後すぐから始めるリハビリの基本

Six Pack Exerciseは、術後早期から安全に実施できる6つの基本的自動運動です。筋萎縮や拘縮、浮腫を予防し、早期回復を促進します。

◯Six Pack Exercise

運動名内容
① 矢印手首と指の関節をまっすぐ伸ばし5秒間キープ。ゆっくり力を抜く。
② テーブル(MP関節)①から指の付け根の関節(MP関節)のみを曲げる。
③ かぎ(MP・IP関節)親指以外の4本の指の付け根の関節(MP関節)を伸ばし、指の関節(PIP・DIP関節)を曲げる。
④ にぎり指を強く握り5秒間保持し、ゆっくり力を抜き元に戻す。
⑤ 内転・外転5本の指を伸ばしたまま、指を出来るだけ開いて、閉じる。
⑥ つまみ親指の指先を他4本の指先と合わせます。指先を合わせた状態で2~3秒キープする。すべての指で行い元に戻す。
※元に戻す時は指をしっかり伸ばす。

◯中指トレーニング

「Six Pack Exercise」で動かせない中指を単独で動かすトレーニングが重要になります。

中指を含めた手の内在筋を鍛えると手指機能の根幹を支える「手の横アーチ」が強化されます。手の横アーチは手全体の動的安定に関わっています。

手をパーの形にしてテーブルに乗せる。

①中指のみを右側へ寄せる。

②中指のみを左側へ寄せる。

①②を繰り返す。

※ゆっくりでかまいません。出来るだけ大きく左右に中指を動かしてみましょう。この時テーブルから離さないように注意

✅ポイント

1日3〜5セット(1セット10回程度)

疼痛がない範囲で実施

セルフチェックとして「握力」や「指の浮腫・皮膚色」も観察

創部モビライゼーション|癒着を防ぎ、柔軟性を保つ

コーレス骨折術後の創部は、通常は小切開で行われるプレート固定術によって形成されます。しかし、瘢痕(創部)の治癒過程で皮膚と皮下組織、筋膜、腱膜との癒着が起こると、手関節の動きに制限や違和感、痛みを残す可能性があります。これを防ぐのが、創部モビライゼーション(Scar Mobilization)です。

◯創部モビライゼーションの目的

瘢痕と下層組織の滑走性を回復

可動域制限や慢性痛、皮膚の硬化の予防

局所循環を促進し、浮腫の軽減にも寄与

◯開始時期の目安

通常は術後2週間以降(抜糸後)から開始

医師の許可を得て、創部の状態に応じて段階的に実施することが大切です(抜糸前より開始する場合はリスク管理が必須)

◯基本的な手技

技法目的と動き
🫳 つまむ(ピンチ)瘢痕を指でつまみ上げ、皮膚と皮下の滑走性を確認・改善する
↔️ ずらす(シフト)創部を前後・左右・上下にスライドさせ、線維癒着を解放する
↕️ 広げる(ストレッチ)指で瘢痕周囲を拡張し、皮膚の柔軟性を高める

✅ 注意点

圧痛や熱感、赤みがある場合は中止

必ず無理のない範囲で、少しずつ刺激量を増やす

表皮に過剰な牽引をかけないようにし、軟部組織を“ゆっくり剥がす”ようなイメージで行う

まとめ|早期介入と個別対応が、術後回復を左右する

コーレス骨折に対するリハビリテーションは、単なる可動域訓練にとどまらず、組織間の滑走性、筋機能、疼痛管理、日常生活への復帰を多面的に考慮する必要があります。

中でも、創部モビライゼーションは、術後瘢痕による癒着を予防し、皮膚とその下層組織(筋膜・腱膜)との滑走性を維持するために重要な技術です。

また、Six Pack Exerciseと中指トレーニングは、高齢者においては、術後の一時的な不活動によって全身機能が低下しやすく、手関節のリハビリと同時に全身の活動量を確保する視点が求められます。

さらに、術後の管理は医師の判断と密接に連携することが不可欠です。創部の状態、感染リスク、皮膚の張力や浮腫の有無を総合的に評価したうえで、患者に最適なタイミング・方法で介入する必要があります。

コーレス骨折の術後リハビリにおいては、創部の癒着を最小限に抑え、関節可動域と筋力、そして生活動作までを段階的に再獲得する視点が、医療者・リハ職の双方に強く求められます。科学的根拠と経験的知見を融合させ、患者がスムーズに日常生活へ復帰できるよう、今後も多職種連携による質の高い介入が必要です。


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櫻訪問リハビリテーションでは、高齢者施設にご入居の皆さまや施設職員の方々へ、個別リハビリテーションの提供を通じて、施設サービスの質の向上をお手伝いしています。

骨折など術後のフォローも丁寧に対応させて頂きます。

マッサージやストレッチのみのご利用も可能ですので、お気軽にご相談ください。

詳しいご説明やご相談は、どうぞお気軽にお問い合わせください🙇‍♂️


【引用・参考文献】

1)日本整形外科学会 日本手外科学会 橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017

2)日本整形外科学会 橈骨遠位端骨折

3)手の遠位横アーチ(第2~第5中手骨)の制限が手指巧緻動作に及ぼす影響

4)佐藤剛史 他.術後創部の癒着予防における理学療法の実際.理学療法ジャーナル.2019;53(3):292-297.