変形性膝関節症の機能解剖学
リハビリ2025-07-16

櫻リハの櫻本でございます。
さて今回は、「変形性膝関節症」についてです❗️
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)は、年齢とともに膝関節に起こる変化のひとつであり、多くの人が「加齢による軟骨のすり減り」と捉えがちです。しかし、実際には軟骨だけでなく、半月板、靱帯、関節包、脂肪体、滑膜、そして骨そのものに至るまで、多くの組織が関係する“関節全体の病気”です。
変形性膝関節症をより深く理解し、効果的な理学療法や運動アプローチをお話していこうと思います❗️
変形性膝関節症とは?まずは病態の全体像を整理

変形性膝関節症(Knee OA)は、単なる軟骨のすり減りではなく、関節を構成する複数の組織(骨・半月板・靭帯・滑膜・脂肪体・関節包)にわたる変性・炎症・機能低下の複合的病態です。
1.半月板の逸脱や破綻
2.腸脛靭帯(ITB)の滑走障害
3.関節包の拘縮
4.BML(骨髄浮腫)の存在
5.滑膜や脂肪体など滑走組織の線維化・炎症
解剖学的・画像所見からみる組織別の病態

組織 | 主な変化 | 臨床での症状や影響 |
---|---|---|
軟骨 | 摩耗・菲薄化 | 関節間隙の狭小化、可動時痛 |
骨 | 骨棘形成、BML(骨髄浮腫) | 荷重時痛、夜間痛 |
半月板 | 逸脱・断裂 | 膝関節の安定性低下、クリック音 |
ITB(腸脛靭帯) | 滑走不全・緊張 | 外側膝の圧痛、アライメント悪化 |
関節包 | 線維化・拘縮 | 可動域制限(特に伸展制限) |
脂肪体・滑膜 | 炎症・線維化 | 腫脹、伸展時痛、圧痛点形成 |
🔸BML(Bone Marrow Lesion)はMRIで検出される浮腫様所見で、疼痛と進行の重要なマーカーです。
機能解剖に基づく評価のポイント
“どの組織にストレスがかかっているのか”を見極める多角的アプローチ
変形性膝関節症では、単に「痛いかどうか」だけでなく、どの解剖学的構造が関与しているのかを明らかにすることが、治療の方向性を左右します。ここでは、構造・動作・触診の3つの視点での評価方法をご紹介します。
①【構造的アライメント評価】
荷重線と骨配列から“負荷のかかる部位”を予測する

🔍評価項目
膝のO脚(内反)・X脚(外反)
FTA(大腿脛骨角)、膝蓋骨の向き
骨盤の傾き、下腿回旋
💡臨床の意味
内反膝+FTA拡大:内側関節面への負荷↑ → BML(骨髄浮腫)・半月板逸脱の温床
骨盤の後傾・過回内足:Knee adduction moment(KAM)↑ → 関節変性の進行要因に
②【動的姿勢と運動制御評価】
動作中の骨・筋の連動異常を捉える(Functional Movement Assessment)

🔍 評価項目
立ち上がり動作・階段昇降時の膝の軌道
片脚立位(SLS)での骨盤の崩れ、膝の内外反
歩行時の膝の横揺れ・膝伸展タイミング
💡 臨床の意味
片脚立位で骨盤が落ちる:中殿筋機能不全 → 腸脛靭帯(ITB)への滑走ストレス↑
階段昇降で膝が内側に入る(Dynamic valgus):膝関節内側への剪断ストレス↑ → 半月板損傷や内側靱帯の過伸張のリスク
③【局所組織の圧痛・可動性評価】
触診により“どこが硬いか・痛いか・滑らないか”を確認する

🔍 評価項目
Hoffa脂肪体の圧痛・浮腫感(特に伸展時)
内側関節裂隙の圧痛(半月板・BMLの可能性)
外側裂隙でのITB滑走の硬さ
関節包前方・後方の可動性と癒着の有無
💡 臨床の意味
伸展時痛+膝蓋下圧痛:脂肪体の滑走障害や線維化を示唆
外側滑膜の張り・ITBの滑走不全:腸脛靭帯由来の外側膝痛に注意
✅評価から導くターゲット別の介入方針(実践チャート)
評価所見 | 疑われる病態 | 推奨介入 |
---|---|---|
片脚立位で骨盤が崩れる | 中殿筋の筋力低下 → ITB緊張亢進 | 股関節外転トレ+ITB滑走アプローチ |
伸展時痛+膝蓋下圧痛 | 脂肪体滑走障害・炎症 | 関節モビライゼーション/脂肪体滑走訓練 |
歩行時の膝内反が顕著 | KAM↑ → 内側半月板損傷・BML | 歩容修正、荷重分散型トレーニング |
外側膝裂隙の圧痛+滑走不全 | ITB滑走障害/外側滑膜線維化 | 滑膜リリース、股関節制御訓練 |
運動療法プログラム(痛みの軽減+機能回復)
「どの組織に、どの運動が、なぜ効くのか」を論理的に組み立てる
変形性膝関節症(膝OA)の運動療法は、「ただ筋トレをすればよい」というものではありません。病態に応じた組織の動態と滑走性、筋連動の破綻を捉え、それに適した運動を選択することが、痛みの軽減と機能回復の鍵です。
① 【関節滑走とモビライゼーション:可動域制限・伸展障害への対応】
🔍 主なターゲット
関節包(前方線維の拘縮)
Hoffa脂肪体の滑走制限・癒着
滑膜の線維化による伸展時痛
💡 介入方法
膝蓋骨下縁〜脂肪体周囲の前後方向モビライゼーション
関節包の前方滑り誘導:徒手or関節運動内モビリティ
非荷重位での滑走促進:足底スライド体操(ヒールスライド)やSLR伸展キープ
✅ポイント
特に0〜10°の伸展制限は、歩行の立脚期や立ち上がり動作で疼痛を悪化させやすい
モビライゼーション前後に荷重課題と連携することが重要
② 【股関節・膝関節の筋力強化:力学的アライメントの改善】
🔍 主なターゲット筋
筋群 | 目的 | 推奨エクササイズ |
---|---|---|
中殿筋 | 骨盤安定性/KAMの軽減 | クラムシェル、ヒップアブダクション |
内側広筋(VMO) | 膝蓋骨制御/膝伸展力強化 | クォータースクワット、SAQ |
ハムストリングス | 後方安定/膝制動 | ヒップリフト、ヒップヒンジ |
股関節外旋筋群 | ITB滑走補助/動的膝安定 | サイドブリッジ 、片脚スクワット軽負荷 |
✅ポイント
低伸展位(約30°屈曲位)で始めることで、関節内圧を抑えながら筋活動を引き出す
重視すべきは“筋肥大”よりも筋のタイミング(収縮の入り)と動作の質
③ 【腸脛靭帯・滑走組織の滑走改善:滑膜・脂肪体・外側膝の痛み対応】
🔍 主なターゲット
腸脛靭帯(ITB)と外側広筋の滑走不全
外側滑膜・関節包の線維化
外側膝の圧痛・突っ張り感
💡 介入方法
ITBのストレッチは単独では非効率。代わりに
◯股関節外旋+内転筋の強化
◯スライディング運動(横移動)を組み合わせた荷重訓練
フォームローラーなどの機械的刺激は一時的緩和に有効(痛みが強くない時期に)
✅ポイント
ITB自体は非伸張性組織のため、「滑走を促す」運動設計がカギ
中殿筋と外旋筋の機能強化が、ITBのテンションを間接的にコントロールする
④ 【全身協調性の再構築:動作の質を高める応用課題】
🔍 主な目的
姿勢制御と下肢連動性の改善
痛みの再発予防と自己管理
💡 推奨内容
立ち上がり運動:痛みの出ない範囲で動作反復し、荷重配分を再学習
横歩き・バックランジ(後方への踏み出し):前後・左右方向への筋連動の再教育
スプリットスクワット(片脚支持のスクワット):股関節・膝・足関節の連携向上
✅ポイント
骨盤・体幹と膝の協調性を取り戻すことで、動作全体がスムーズに
高齢者や痛みが強い方には、椅子→立位→歩行へと段階的に組み立てる
補足:運動療法の進行ステージに応じた組み立て
ステージ | 主な症状 | 主なアプローチ |
---|---|---|
急性期 | 疼痛・腫脹あり | 滑走改善、非荷重ROM、徒手 |
回復期 | 可動域制限+筋力低下 | 関節モビライゼーション+筋トレ |
慢性期 | 動作パターンの破綻 | 姿勢制御訓練+全身連動強化 |
まとめ
変形性膝関節症への理学療法は、「関節のどこが壊れているのか」「どの組織が原因で痛いのか」を見極めた上で、滑走性・関節アライメント・筋力の3本柱で運動療法を構築することが重要です。
多組織にわたる病態理解+機能解剖に基づく評価+的確な介入こそが、痛みの軽減と生活機能の再建に直結します。
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変形性膝関節症の慢性的な痛みや歩くことが大変になった方、今のADLを維持したい方など丁寧に対応させて頂きます。
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【引用・参考文献】
1)Roemer FW et al. Bone marrow lesions and osteoarthritis. Semin Arthritis Rheum. 2009
2)変形性膝関節症における bone marrow lesions と骨強度パラメーターとの関連
3)Cowan SM et al. Delayed onset of EMG activity in VMO. Arch Phys Med Rehabil. 2001
4)Fairclough J et al. The iliotibial band: anatomical model. J Anat. 2006