その痛みは全て、坐骨神経痛なのか?
リハビリ2025-04-23

櫻リハの櫻本でございます。
今回は「坐骨神経痛」についてです❗️
臀部から大腿後面にかけての痛みは、日常臨床で頻繁に遭遇しますが、必ずしも「坐骨神経痛」と同義ではありません。坐骨神経痛は原因がはっきりと特定できる場合、症状のひとつとして扱われ、検査をしても原因が見当たらない場合は、坐骨神経痛が病名となります。
坐骨神経痛、筋伸張痛、さらには骨盤・股関節の不良肢位に伴う梨状筋症候群を含む多様な病態を整理し、鑑別のポイントとリハビリテーションをご紹介します❗️
坐骨神経痛とは?

坐骨神経は、坐骨神経走行に沿った神経因性の痛み。大腿部と下腿後面から足の裏に下行するか、あるいは下腿外側面に沿って足の背面に広がっている。
※左図黄色の束が坐骨神経
定義
腰椎神経根(L4〜S3)の圧迫や炎症により、坐骨神経走行に沿った電撃痛、しびれ、灼熱感を呈する病態です
主な原因
椎間板ヘルニア:神経根の機械的圧迫
脊柱管狭窄症:神経通路の狭窄
変形性腰椎症:脊柱管狭窄症とも重なるが、長期間の同じ姿勢や加齢により変形をきたす
梨状筋症候群:上図の梨状筋が伸張位または過緊張し、坐骨神経へ機械的刺激により誘発
筋伸張痛(筋・筋膜性疼痛)とは

定義
筋伸張痛(筋・筋膜性疼痛)は、筋線維や筋膜が急激または持続的に過伸張されることで生じる疼痛
特徴
◯局所的な圧痛点による痛み再現
◯動作開始時痛、ストレッチ時痛
◯鈍痛・ズキズキ感・重圧感
◯筋緊張の触診所見、筋硬結の触知
◯画像検査では骨や関節は正常
骨盤・股関節の不良肢位と梨状筋症候群
骨盤の前傾・後傾や股関節の内旋・外旋、不均等な荷重位が長時間続くと、梨状筋が過伸張または過緊張を起こし、坐骨神経を圧迫することで臀部から大腿後面に痛みやしびれを呈します。これはいわゆる「梨状筋症候群」です。
病態メカニズム

坐骨神経痛は、梨状筋が緊張している症例に合併するが、梨状筋が伸張位でも症状が現れる
◯骨盤前傾+股関節内転・内旋位により梨状筋が伸張され、持続的ストレスで筋緊張が増加
◯骨盤後傾+股関節外旋位で梨状筋が短縮位となり、過緊張が神経を圧迫
◯長時間の片側荷重点で梨状筋がアンバランスに働き、筋膜や神経を牽引
鑑別方法
脊柱病変・梨状筋症候群・筋伸張痛、複合的にどこが原因かを探していきましょう
SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)
背部・下肢の痛みの原因を探るために痛みを誘発するテスト法
方法
仰向けに寝て、膝を伸ばしたまま痛みのある方の足を上に挙げていく。この時膝が曲がらないように膝に手を置いておく。
下肢挙上できる範囲は個人差があるが、正常は70〜80°。このテストで痛みが誘発されれば、坐骨神経痛かハムストリングスの緊張によるものか探らないとならない。ハムストリングの痛みは大腿後面のみ・坐骨神経痛は神経走行に沿って下腿まで広がる。
◯痛みがある位置より少し(5°程度)足を下げ、足関節を背屈し坐骨神経を伸張させると坐骨神経痛が誘発される
◯足関節を背屈しても痛みが誘発されなければ、挙上時のハムストリングスの緊張によるもの
※下肢挙上時・背屈時も誘発されるのであれば、痛みの部位を正確に尋ねる。坐骨神経に走行に沿う部位か腰椎かいずれか
ウェルレッグレイズテスト(健側下肢挙上テスト)
椎間板ヘルニアの病変を探るテスト法
方法
仰向けに寝て、膝を伸ばしたまま痛みのない方の足を上に挙げていく。この時膝が曲がらないように膝に手を置いておく。
痛みのない下肢を挙上していくと、痛みのある方(反対下肢)の神経根が僅かに牽引されていきます。それにより神経根の圧迫を誘発されます。この時に反対下肢の後面または腰部へ痛みが誘発されたら腰椎ヘルニアの可能性が高いです。
FAIRテスト
梨状筋症候群のテスト法
方法
仰向けに寝て、股関節・膝関節は90°屈曲する。膝関節を90°屈曲することによりハムストリングスの刺激症状を除外している。そのまま、股関節を内転・内旋位にする。
この肢位は、梨状筋を最も伸展位にしている。坐骨神経症状が増悪した場合は陽性となる。
そのほかのちょっとした見分け方
梨状筋症候群
◯非荷重によって坐骨神経症状は軽減するか、消失するか?
◯痛みのない足で片足立ちをすると、症状は軽減するか?
◯臥位・立位でも、下肢を外旋および外転によって症状は軽減するか?
脊柱病変
◯歩いていると足が痛くなり、少し休む・前かがみになると症状が軽減するか?
◯症状が遠位部に限局しているか?
前かがみ動作との関係
筋伸張痛でよく聞く訴えは、前かがみで「腰が痛い」「お尻が痛い」です。
筋肉の過緊張や短縮がある場合、前かがみ(腰椎屈曲・股関節屈曲)で伸張ストレスが増大し、筋伸張痛が増強します。しかし、電撃的な神経症状(しびれや鋭い放散痛)が伴わなければ、必ずしも坐骨神経痛とは関わりません。これはあくまで筋・筋膜の機械的刺激による痛みです。
症状の比較まとめ
項目 | 坐骨神経痛 | 椎間板ヘルニア/脊柱管狭窄症 | 筋伸張痛 |
痛みの性状 | 電撃痛 | 持続性疼痛、歩行で増悪 | 圧痛、動作痛 |
神経症状 | ピリピリとした痺れ | 下肢の痺れ、間欠性跛行 | なし |
誘発テスト | SLR、FAIRテスト | SLR、ウェルレッグレイズテスト | 圧痛再現、ストレッチ |
画像所見 | CT、MRIで神経圧迫 | CT、MRIで椎間板膨隆・ヘルニア、狭窄所見 | ほぼ正常 |
リハビリテーション方法
共通アプローチ
◯日常活動時の不良姿勢修正(静的・動的アライメントの再教育)
◯体幹安定化運動(腹横筋、多裂筋の活性化)
◯適切な負荷進行の段階的運動処方
ストレッチ

【内転筋ストレッチ】
※画像は少し違います
①椅子などの高さがあるものに片足を乗せ、つま先を上に向ける
②体は正面を向いたまま前にかがみ、内ももを伸ばす
③この姿勢を10秒間キープ、休憩を挟み3セット行う

【梨状筋ストレッチ】
①足を太ももに乗せる
②膝を手を置き、膝が上がらない様におさえる
③背筋を伸ばし、身体を前へ倒す
③の姿勢をキープして左右30秒
身体を斜めにも倒すとより効果的❗️
自転車漕ぎ

【自転車エルゴメーター】
脊柱管狭窄症の方でも簡単に取り入れられるリハビリテーションです。
前傾姿勢になると、神経や血管の圧迫が改善され症状が緩和、股関節や膝関節の運動で改善が期待できます❗️
前傾姿勢がポイントとなっているため、自転車以外にも手押し車や杖でも代用することが可能です。
筋力強化

腹筋の筋力が正常であることも、強力な背筋に対する拮抗筋として重要です。良好な姿勢アライメントと物の持ち上げなど活動時における体幹の安定化機構に関与しています。しかし、特に下腹部筋が筋力低下をきたしやすい。腰仙部の安定性に関与しています。
他にも、腰や臀部を温めるのも血流が改善され痛みも和らいできます。本当にツライ時は内服薬を処方してもらうようにしましょう🙇♂️
まとめ
臀部〜大腿後面の痛みはいくつかの病態が重複する場合もあり、全てが坐骨神経痛ではない可能性もあります。問診・理学所見・画像所見を組み合わせ、坐骨神経根障害、筋伸張痛、梨状筋症候群を適切に鑑別し、個々の病態に応じたリハビリテーションを行うことが治療効果と再発予防の鍵です。
また、高齢者の多くは、既往歴、加齢に伴う変性やアライメント不良が複雑に絡まり坐骨神経痛や梨状筋症候群を呈しています。立ち上がりや座位保持も大変な方々が多くいられます。今の生活を維持していくのも大変な事ですが、日々の生活でリハビリをしっかり行い症状を食い止めていきましょう❗️
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櫻訪問リハビリテーションでは、高齢者施設のご入居様や施設様の個別リハビリテーション、施設サービスの向上のお手伝いをさせて頂きます。通常のリハビリテーションに加え、痛みの緩和に対してのマッサージやストレッチのみでもご利用可能です。詳しいご説明やご相談はお気軽にお問い合わせ下さい🙇♂️
【引用・参考文献】
1)日本整形外科学会. 腰痛診療ガイドライン. 医学書院; 2019.
2)Bogduk N. Clinical Anatomy of the Lumbar Spine and Sacrum. 4th ed. Churchill Livingstone; 2005.
3)Sherrington C, et al. “Muscle strain injuries: Pathophysiology, diagnosis and treatment.” J Orthop Sports Phys Ther. 2017;47(11):776–784.
4)Delitto A, et al. “Low back pain: Clinical practice guidelines linked to the International Classification of Functioning, Disability and Health from the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association.” Phys Ther. 2021;101(3):1–12.